なんとなく
人の流れに乗ってホームの階段を下り、私鉄へと乗り換える。いつ来ても人でごった返しているその駅は、この季節、綺麗に着飾った卒業生で賑わっていた。
征士は何となく上機嫌で中吊り広告を見ながら電車に揺られていたが、そのうち視線を窓の外の風景へと移す。ちょうど同じ駅へ向かう地下鉄が地上へと顔を出したところで、自然と、すぐそばを平行に走る電車を見る形になった。
その電車の中に、征士はよく知った青い髪を見つける。それは向こうも同様だったらしく、ホームに着くと同時に乗り換える人々に混じって、彼も征士の方へとやってくるのだった。
「何、おまえ、早いじゃん」
「自主トレになったので早めに切り上げた」
それこそいつもなら人一倍取り組む筈だ。当麻は、珍しいこともあるものだと意外に感じつつも、緩く笑って言葉を続けた。
「天気がいいからなー」
外は気持ち良く晴れていて、あちこちの庭で満足気に梅の花が咲いていた。
当麻の台詞につられたように、征士も視線を窓外に戻す。その、不思議なくらい穏やかな征士を見て、当麻も楽しくなるのを感じた。
「じゃあさ――」
ホームに入るといきなり征士の腕を引いて、二人で電車を飛び降りた。そのまま改札を抜け、その場に征士を待たせる。それから駅付近の商店街へと入っていくのを、取り残された征士はあっけにとられて見送った。
そこは普段彼らが使う駅よりも手前の駅で、征士は下車したことのない場所だった。
やがて戻ってきた当麻を見て、征士は喉の奥で小さく笑った。
「ちょっと持って」
買ってきたたこやきを征士に渡すと、そのまま今度は甘栗を買う。
「散歩しようぜ」
「ふた駅分もか?」
困った様子も呆れた態度も見せずにただ笑う征士に、たまにはいいだろ、と当麻は歩き出した。
「ここのたこやきは美味いんだ」
そう言いながら、当麻は征士からたこやきを受け取る。
「甘栗は?」
「売ってる人がいいだろ」
気前のよさそうな中年女性が、当麻用におまけして袋詰めするのを見ると納得がいった。
当麻はたまにこの駅を使うらしく、いつもは誰と一緒なのだろうか、とふいに征士は思う。だが、それは口には出さず、たわいのない話をしながら二人は歩いていく。久し振りにゆったりと過ごすことが出来て、しかも、他の誰でもなく当麻が横に居ることの方が、今の征士には大切に思えた。
十分ほど歩くと、小さな公園に着く。ベンチに座って甘栗を食べる二人を、時折ちらりと人が見ていく。気にしない二人は、そうして、日が暮れるまで静かに楽しげに笑い合っているのだった。
掲載日:2005.11.02